職人として、
何を残すか。
修行
技術だけではなく、
精神も鍛える。
修行は、技術を覚えるためだけの時間ではないと思っています。毎日同じように見える仕事でも、食材も、火も、水も、その日の自分自身も少しずつ違います。うまくいく日もあれば、思うようにいかない日もある。その中で仕事を続けながら、少しずつ見る力や考える力を身につけていく。
包丁、出汁、火入れ、掃除、道具の扱い、所作、挨拶。そうした一つひとつの仕事を繰り返す中で、技術だけではなく、集中力や忍耐、精神力も鍛えられていくものだと思います。


料理の世界では、すぐに答えが出ないことも多く、何年続けても分からないことがあります。そのたびにもう一度食材を見て、考えて、やり直す。その積み重ねの中で、少しずつ仕事が深くなっていく。


昔ながらの厳しさを、そのまま残せばいいとは思っていません。ただ、楽なことだけを選んでいては身につかないものもあると思います。
技術を磨くことも、心を鍛えることも、自分と向き合うことも、すべて修行の中にある。
僕自身もまだその途中です。

佐々 悠樹
小学校低学年の頃から、料理の道に進みたいと思っていました。十八歳で料理の世界に入り、二十四歳で上海へ渡りました。
日本を離れたことで、日本料理を外から見るようになりました。日本にいる時には当たり前だった、季節の食材を使うこと、魚や野菜の状態を見て仕事を変えること、米を炊くこと、出汁を引くこと、火や水を扱うこと。海外に出ると、それらは決して当たり前ではありませんでした。
その経験から、日本料理は技法だけで成り立つものではなく、日本の風土や食材、季節の感覚、日々の仕事の積み重ねの中にあるものだと、以前より強く考えるようになりました。
東京・広尾で佐々を始めた今も、毎日の仕事の中で学ぶことばかりです。食材を見て、料理をして、その積み重ねの中で少しずつ深めていきたいと思っています。


伝承
割りではなく、
塩梅を伝える。
料理は、割りや手順を覚えればできるものではないと思っています。
真鯛なら真鯛でも、一尾ごとに状態は違います。まず姿を見る。色艶、目、鰓、腹の締まりを見て、触れて身質を確かめる。そこから皮目、香り、脂、水分まで見て、その魚が今どんな状態なのかを読む。
その上で、どういう料理にするのか、その日の塩梅を考えます。だから、いつも同じ割りで、いつも同じ味にするという考えではありません。

大切なのは、決まった答えを覚えることではなく、食材を見て、自分で考え、その日の塩梅を決められるようになることです。
仕事の本質を見て、自分で判断する。
その積み重ねの中で、技術だけではなく、職人としての精神も少しずつ身につけていく。本質を見失わず、その精神を次へ伝えていく。それが、佐々で大切にしたい伝承だと思っています。


佐々が残したいもの
何を大切にして、
料理をするのか。
料理で大切なのは、流行を追うことでも、目新しさを競うことでもないと思っています。見たことのない組み合わせや、驚かせるための演出が料理の価値になるわけではありません。
食材を見て、その日の状態を知る。そこから火、水、出汁、米の塩梅を考え、どうすれば食材本来の持ち味を一番素直に出せるのかを探していく。決まった割りや手順に当てはめるのではなく、その日の食材を見て、自分で判断する。
そこには技術だけではなく、仕事に向き合う精神も必要だと思っています。僕が残したいのは、一つの料理の形ではありません。食材の本質を見て、自分で考え、その日の仕事を決めること。その考え方や精神が弟子たちに伝わり、それぞれの仕事の中でさらに深くなっていく。


料理は時代とともに変わっていくと思います。けれど、流行が変わるたびに料理の軸まで変わる必要はない。
何を大切にして料理をするのか。そこだけは変えたくない。
佐々が残したいのは、料理そのものだけではなく、料理に向き合う姿勢です。